
長距離ドライバーの勤務時間をめぐっては、改善基準告示や働き方改革関連法の影響により、労働環境の見直しが進められています。
特に自動車運転業は長時間労働の問題を抱えており、現状では業界全体での対応が求められている状況です。
本記事では法令の概要とあわせて、勤務実態や原因、そして企業やドライバーが取るべき対応策についても詳しく解説します。
長距離ドライバーの拘束時間とは?
拘束時間とは、ドライバーの勤務中における労働時間と休憩時間を合わせた時間のことです。
運転していない時間であっても、その場に留まり対応を求められるような状態であれば、それは労働から解放されていない時間として、労働時間に含まれます。
たとえば、トラックの荷待ち時間や点呼を待つ時間なども、本来は労働時間にあたります。
拘束時間の基準は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」で定められており、ドライバーの健康や安全、そして運送業全体の労働環境を守るために設けられた制度です。違反が確認された場合、事業停止や車両使用停止といった行政処分が科される可能性もあります。
2022年(令和4年)に改正された改善基準告示は、2024年4月より施行され、現在も厳格な運用が求められています。
特に長距離輸送を担うトラック運転手には、例外的に特例が認められるケースもあるため、制度の内容を理解したうえで適切に対応することが重要です。
なお、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」は、以下から参照できます。
■参考:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示) |厚生労働省
拘束時間は1日13時間
長距離ドライバーの1日の拘束時間は、原則として13時間以内とされており、これは改正前と変わっていません。
ただし、上限は従来の16時間から15時間に引き下げられました。
また、14時間を超える勤務日数については、週2回までを目安とし、連続して14時間を超える日が続くのは望ましくないとされています。
特定の業務を担当する長距離ドライバーについては、「特例」により週2回まで16時間の拘束が認められる場合もあります。
この特例を適用する場合でも、安全確保の観点から慎重な運用が求められます。
また、運行ルートや待機場所によって始業・終業の時刻が日々変動するため、拘束時間のダブルカウントに注意が必要です。
たとえば、始業から24時間以内を1日と数えるため、深夜をまたぐ勤務では翌日の拘束時間に一部が重複するケースがあります。
ただし、1か月の拘束時間を集計する際にはこのダブルカウントを含めず、実際の勤務時間をもとに算出するのが基本です。
こうしたルールを理解しておくことは、事業者にとっても勤務するドライバーにとっても重要なポイントです。
1ヶ月でも拘束時間の上限がある
1か月単位でも拘束時間の上限が定められており、原則は284時間です。
ただし、労使協定(36協定)を締結している場合には、最大で310時間まで延長することができます。
ここでも注意したいのは、1日の拘束時間で発生するダブルカウントされた時間は含めないという点です。
実務上では、各日の拘束時間を足して1か月の合計とすることが多いため、記録管理の正確性が求められます。
ドライバーごとの勤務状況をきちんと把握し、月単位でも適切に拘束時間を管理することが、安全運行や労務リスク回避に直結します。
運転時間にも制限がある
拘束時間の中でも、運転そのものに対してはさらに厳密な制限が設けられています。
次の3つの観点から規定されています。
・2日平均で、1日あたり9時間以内
・2週平均で、1週間あたり44時間以内
・連続運転4時間以内
また、連続して運転する時間が4時間を超える場合は、原則として30分以上の休憩を取らなければなりません。
2024年の法改正により、この中断は「休憩等」ではなく「休憩」に明記され、より厳格な扱いとなりました。
なお、やむを得ない事情により運転を中断できないときは、4時間半まで延長が可能です。
この中断時間は、「おおむね連続10分以上」で複数回に分けても問題ありませんが、10分未満の中断は連続して2回までしか認められず、3回以上になるとルール違反とされます。
こうした詳細な条件を理解したうえで運行計画を立てることは、運送業において非常に重要な業務の一つです。
休息は8時間以上必要
終業から次の始業までの間に、適切な休息時間を確保することも求められています。
2024年4月の改正により、この休息期間は従来より1時間長くなり、「継続9時間以上」が必要となりました。
さらに、「継続11時間以上が基本」とする努力義務も追加されています。
特定の長距離ドライバーには、この休息時間にも特例が認められています。
週2回までであれば、休息時間を8時間以上に短縮することが可能ですが、その場合は翌日に「継続12時間以上」の休息をとる必要があります。
休息の管理は、単に規定を守るというだけでなく、ドライバーの健康保持や交通安全の面からも非常に大切なポイントです。
企業は労働時間の記録とあわせて、休息時間の管理についても十分な体制を整える必要があります。
長距離ドライバーが長時間労働になる原因?
道路貨物運送業ではドライバーの長時間労働が大きな課題となっています。
令和3年度の統計では、脳・心臓疾患に関する労災請求のうち、道路貨物運送業が124件(うち死亡39件)と最も多く、ドライバーの健康への影響が深刻であることがうかがえます。
このような背景から、改善基準告示の遵守が強く求められていますが、実際には「守りたくても守れない」という現場の声も多くあります。
勤務実態に即した制度運用が難しい場面もあり、対応には業界全体の意識と構造改革が必要です。
過去には、タコグラフの記録をごまかして走行した結果、居眠り運転による重大事故が発生した例も報告されています。
こうした事態を防ぐには、拘束時間の適正な管理と、ドライバーの負担軽減に向けた具体的な施策が求められます。
手待ち時間が勤務時間を圧迫
長時間労働の大きな原因のひとつが「手待ち時間(荷待ち)」です。
貨物の積み卸し場所での待機時間が長引くことで、実際の勤務時間が大きく延びてしまうことがあります。
令和3年度の調査によると、実運送事業者の約7割が荷待ちの発生を報告しており、元請け事業者でも半数以上が同様の問題を抱えています。
さらに、改善基準告示を守ることが難しいと感じる理由の多くが、この荷待ちに起因しています。
主な原因としては、荷主側の荷役能力不足や、人手不足による作業の遅れ、積卸し時間帯の集中などが挙げられます。
結果として、長距離ドライバーはその場で長時間拘束されることになり、業務の効率化が阻まれているのが現状です。
ドライバーにとっては作業を行っていない時間でも、業務から解放されていない以上、それは勤務時間に該当します。
こうした現場の事情を考慮しないまま時間管理を行うと、知らず知らずのうちに長時間労働に陥るリスクが高まります。
■出典:
運転時間や荷扱い時間の工夫にも限界
ドライバーの運転時間は法令により厳しく制限されていますが、移動距離や道路状況によって拘束時間が延びることも多くあります。
特に高速道路を避けて一般道を利用するケースでは、時間がかかる分だけ労働時間も長くなります。
一方で、荷扱い時間の短縮については一定の改善が可能です。ウイング車やパレット積みなどを導入することで、積み降ろしの効率が上がり、ドライバーの負担軽減につながります。
ただし設備投資や荷主側の協力も必要なため、すぐにすべての現場で改善できるわけではありません。
業界構造と給与体系が引き起こす問題
ドライバーの勤務時間が長くなる背景には、運送業界全体の構造的な問題も関係しています。
運送会社の多くは、発荷主・着荷主との間に位置する下請けまたは孫請けの立場にあり、立場の弱さから荷待ちなどの要望に強く出られないことが多いのです。
このような状況は、ドライバー個人の環境にも影響を与えます。
たとえば、「収入を増やすために基準を超えてでも働きたい」と考えるドライバーも少なくありません。
令和3年度の実態調査では、4割以上のドライバーが「もっと働いて収入を増やしたい」と回答しています。
その背景には、歩合制を採用している運送会社が多く、長時間働かないと十分な収入にならないという事情があります。
つまり、給与体系そのものが長時間労働を助長している可能性もあるのです。
このように、制度だけでなく業界の収益構造や雇用環境、そして社会全体の物流への理解と協力がなければ、課題の解決は難しいままです。
運送業が抱える現場の事情を正しく共有し、多方面からの改善を進めていくことが今後のポイントといえるでしょう。
■出典:トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業 報告書
勤務時間を少なくする取組み
改善基準告示や、2024年4月から施行された時間外労働の上限規制により、物流の現場では従来の働き方を維持することが難しくなってきています。
これにより生じる影響は「2024年問題」とも呼ばれ、トラック運送業界を中心に深刻な課題となっています。
特に、ドライバーの勤務時間をどう短縮し、過重労働を防ぐかが、業界全体の喫緊のテーマです。
この課題に対応するため、現在多くの事業者が勤務環境の見直しや業務フローの改善に取り組んでおり、働きやすさを重視した制度改革が進んでいます。
2024年からの働き方改革
働き方改革関連法により、2024年4月から自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用されました。
これは長距離ドライバーを含む運送業全体に大きな影響を与える制度変更であり、各事業所の対応が重要なポイントとなります。
働き方改革の内容
トラックドライバーの場合、時間外労働の上限は年960時間と定められています。
この規定は特例ではなく、業務の種類にかかわらず一律に適用されます。
仮にこれを超えて勤務させたい場合には、労使間で36協定を締結し、その内容を労働基準監督署へ届け出る必要があります。
規定を超えて労働させた場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった罰則が科される可能性があります。
これは事業所側にとっても大きなリスクであり、制度順守に対する責任が今まで以上に問われる時代となりました。
事業所が対応できること
勤務時間を少なくするためには、運送業の構造そのものの見直しとあわせて、日々の業務における負担の分散や効率化が必要です。
特に以下の2点は、多くの現場で導入が進められている具体的な取組みとして注目されています。
予約システムの導入
ドライバーの勤務時間の中で、大きな負担となっているのが荷待ち時間です。
これを削減する有効な方法として、積卸し予約システムの導入が進んでいます。
このシステムでは、ドライバーがスマートフォンやタブレットなどを通じて、空き状況をリアルタイムで確認し、入構時刻の予約を行うことができます。
荷主側にとっても、事前準備がしやすくなることで作業の効率化につながり、全体の待機時間の削減が見込まれています。
現在では予約機能に加え、混雑回避のための入構制限や自動通知など、多様なサービスが組み合わさった高機能なシステムも登場しており、運送現場のDX化が加速しています。
勤怠管理の強化
労働時間の正確な把握と管理は、勤務時間の抑制に欠かせない要素です。
従来はドライバー個人に任せがちだった勤務記録ですが、今では勤怠管理システムを導入し、管理者がリアルタイムで状況を把握する取り組みが広がっています。
このようなシステムでは、運転時間、休憩時間、拘束時間などが自動で記録され、管理者がその情報を基に勤務時間の調整や是正を行うことが可能です。
結果として、長時間労働を未然に防ぎ、法令違反のリスクも抑えやすくなります。
とくに中小の運送会社ではこうしたシステムの導入が初期の負担となることもありますが、労働環境の改善と安全性の向上という観点から、導入支援制度や補助金を活用する動きも出てきています。
まとめ
トラックドライバーの長時間労働が社会課題として注目されているなかで、とくに大きな原因となっているのが荷待ち時間の長さです。
荷主の事情や業務体制にも関係しているため、運送会社だけで解決するのは難しく、業界全体での協力が求められます。
こうした課題に対応する手段のひとつが、積卸しの予約受付システムの導入です。
実際にこのシステムを導入した現場では、荷待ち時間が短縮されただけでなく、ドライバーの勤務負担が軽減され、業務全体の効率化にもつながっています。
荷主側にとっても作業の計画性が高まり、無駄な待機時間を削減できるというメリットがあります。
また、2024年以降に強化された改善基準告示や働き方改革関連法に違反した場合、事業所には罰則が科される可能性もあるため、制度の理解と順守は非常に重要です。
現在の運送業を取り巻く環境では、労働時間の見直しや勤務管理の徹底が不可欠となっており、今後も法制度と実務対応の両面から改善を続けていくことが求められます。