
日本のトラック業界の現状やトラックメーカーのマーケットシェア、日本および世界の売上と売上予測、トラック業界における今後の課題などを紹介します。
本記事では、国内外のトラック市場に関する市場調査や分析結果も交えながら、各メーカーの特徴やシェア、中型・小型・大型車それぞれの用途や役割の違いについても触れています。
また、2024年から2025年にかけての世界市場の動向や、燃料や環境に対する意識の変化が与える影響、物流インフラとの関係性など、将来的に注目されている課題や対応の方向性についても取り上げています。
トラック業界のこれまでの流れやこれからの動向の把握にお役立てください。
今後の市場規模や販売台数の推移予測にも触れており、トラックメーカー各社がどのように対応を進めているかもご覧いただけます。
日本のトラック業界の現状
日本のトラック業界の業界規模は2018年までは増加傾向にありましたが、2018年から2020年にかけて減少し、2021年に再び増加に転じました(業界規模4.8兆円)。
2021年のトラックシャーシの販売台数は114.7万台(前年比10.0%増)、販売金額は2兆9,986億円(前年比16.7%増)です。
2020年は販売台数、販売金額ともに減少しましたが、2021年はともに増加しました。
コロナ前の2019年と比べて販売台数は縮小していますが、販売金額は同水準まで回復しています。
2022年は半導体などの部品不足の影響を受けて国内市場のトラック販売台数が減少しましたが、海外市場の需要は堅調です。
また、国内運輸業の大規模事業所や経営状況が好転した事業所においてもトラックの購入意欲が高くなっています。
こうした動向は、最新の市場調査や経済環境の分析にも裏付けられています。
近年はトラック業界でも次世代自動車の開発が急がれています。
特に環境負荷の軽減や燃料の効率化に対する取り組みが強化されており、エネルギーの多様化や排出ガスの削減が課題となっています。
ディーゼルエンジンの規制強化の動きにより、2018年にはトヨタ自動車といすゞ自動車が資本提携を、2022年にはいすゞ自動車が米GMとのディーゼルエンジン生産の合弁事業を解消しました。
一方で、2021年にはトヨタ自動車といすゞ自動車、日野自動車(2022年除名)が商用車向けのCASE技術開発会社「CJPT」を設立し、同年にスズキ、ダイハツ工業が出資しています。
このような国内メーカーによる次世代モビリティへの対応は、今後の2024年以降、特に2025年に向けての開発ロードマップにおいても注目されています。
さらに商用車の自動運転化や電動化の技術確立の競い合いも世界的に展開されており、開発が加速しています。
例えば2018年には高速道路でトラック隊列走行の実証実験が、2022年には福岡空港のターミナルビル間で大型自動運転バスの共同実証実験が実施されました。
これらのプロジェクトは、インフラとの連携や運行の効率化を目指す試みとしても評価されています。
また、近年の日系企業はアジア市場に注力しています。
近年アジアは著しい経済成長によって物流や輸送が拡大しており、トラック市場においても大きな伸びが期待されるためです。
特に中型・大型車の用途においては、アジア・アフリカなどの地域での需要が高まりつつあり、メーカー各社はこの傾向に対応した製品展開を進めています。
各社の特徴を踏まえた市場の動きや、今後の販売台数・価格の動向にも注目が集まっており、日本国内だけでなく、米国・欧州・中国などグローバル市場との比較や分析も重要となっています。
■出典:業界動向リサーチ
世界のトラック業界のシェア
トラック業界の世界シェアは海外企業が上位を占めています。
2020年のトラック業界のシェアは次のとおりです(ランキング形式で1位から10位まで記載)。
順位 | 企業 | 割合 |
1位 | 東風汽車集団(中国) | 1.59% |
2位 | ダイムラー(ドイツ) | 1.3% |
3位 | タタ・モーターズ(インド) | 1.26% |
4位 | 中国重型汽車集団(中国) | 1.01% |
5位 | いすゞ自動車(日本) | 0.95% |
6位 | 日野自動車(日本) | 0.91% |
7位 | 中国第一汽車集団(中国) | 0.91% |
8位 | トレイトン(ドイツ) | 0.63% |
9位 | 陜西汽車集団(中国) | 0.62% |
10位 | ボルボ(スウェーデン) | 0.60% |
※商用車・トラックメーカー各社の販売台数を分子に、市場規模(販売台数ベース)を分母にして算出。
このように、アジア地域を中心とする中国の企業が目立っており、china(中国)勢の存在感が際立っています。
特に中型・大型トラック分野においては、地域ごとの物流事情に対応した特徴や用途別の製品展開が進んでいる点がポイントです。
今後にかけては、欧州や米国のトラックメーカーとの技術競争や環境対策が業界の注目点として挙げられるでしょう。
排出ガス規制や燃料効率の向上といった環境への取り組みがシェア争いにも影響を与えると予測されています。
■出典:商用車・トラック業界の世界シェアと市場規模 | ディールラボ
トラック業界のM&A
2000年代は大手自動車メーカーが車両のフルライン化を目指しましたが、2010年後半からはトラックやバス事業を分社化する動きが続いています。
2005年 | ダイムラークライスラーが三菱ふそうを子会社化 |
2007年 | ボルボが日産ディーゼル工業(現UDトラックス)を子会社化 |
2019年 | VWがトレイトン(VWのトラック・バス部門)を上場 いすゞ自動車がUDトラックスの買収を発表 |
2020年 | トレイトンがナビスター・インターナショナルの買収を発表 |
2021年 |
ダイムラーがダイムラートラック(ダイムラーの商用車部門)を分社化 |
これらの再編は、各社が市場調査や事業分析を踏まえて、中長期的な収益モデルや効率化を追求した結果といえます。
とくに欧州や米国では、トラックの種類別や用途別の事業最適化が進められており、グローバル競争のなかで管理・運営の効率性向上や規制対応の柔軟性を高める動きが加速しています。
大手トラックメーカーの紹介
ここでは、世界の代表的な大手トラックメーカーを5社紹介します。
それぞれの企業には地域性や市場ターゲット、用途への対応、収益構造などの多様な特徴があります。
Dongfeng Motor(東風汽車、ドンファン)
1969年に設立された中国の国有自動車メーカーです。
商用車(軽〜大型、特装車まで網羅)や乗用車などを生産しています。
世界中で高い知名度を誇り、2018年の売上高は900億ドルに達しています。
近年はアフリカや中東を含む新興地域でのシェア拡大にも力を入れており、物流インフラと合わせた事業展開が進められています。
Volvo Group (ボルボ)
1927年に設立された多国籍企業で、本社はスウェーデンにあります。
トラックやバス、建設機械などを生産しています。
2022年の純売上高は445億ユーロに達しました。
欧州市場を中心に強みを持ちつつ、環境性能や安全性に配慮した技術開発でも評価が高い企業です。
First Automobile Works Group(第一汽車)
1953年に設立された中国最古の国有自動車メーカーです。
トラックから乗用車まで幅広い車種を生産しています。
2021年の売上高は7,057億元に達しました。
中国国内のみならず、近年では中東・アフリカ市場にも進出しており、地域ごとの需要に応じた商品ラインの最適化を図っています。
Beijing Automotive Group(北京汽车工业控股)
1958年に設立された中国の国有自動車メーカーです。
自社ブランドのほか、ベンツなどの海外ブランドの合弁会社の下でも車両を生産し、2022年時点でBAICの年間収益は4,500億元を超えています。
多様な市場ニーズに応じた車両構築や、製品のタイプ別戦略にも注力しています。
Daimler AG(ダイムラー)
1926年に設立されたドイツに本社をもつ多国籍自動車企業です。
2021年に商用車部門をダイムラー・トラック・ホールディングスとして分離して上場させ、ダイムラー自身も2022年にメルセデス・ベンツ・グループへと社名を変更しました。
2022年のグループ収益は1,500億ユーロに達しています。
グローバルでの環境規制や効率化への取り組みも積極的に行っており、持続可能な物流を支えるインフラへの貢献も強調されています。
トラック業界の売上
2021-2022年のトラック業界の売上高(ランキング形式)は次のとおりです。
順位 | 企業 | 金額 |
1位 | いすゞ自動車 | 2兆5,142億円 |
2位 | 日野自動車 | 1兆4,597億円 |
3位 | 三菱ふそうトラック・バス | 6,573億円 |
4位 | UDトラックス | 2,686億円 |
これらの企業は、それぞれ異なる市場セグメントや用途に強みを持っており、車両の特徴やタイプ別の展開戦略も異なります。
たとえば、いすゞ自動車は中型および小型トラックにおいて国内外で高いシェアを誇り、効率的な物流運用を支える燃費性能や耐久性に定評があります。
一方で、日野自動車は大型車両での積載性や操作性に加え、近年では環境対応技術の導入にも積極的です。
2024年・2025年に向けては、業界全体でカーボンニュートラル対応や燃料の多様化、さらには規制強化への柔軟な対応が求められており、メーカーごとの対応方針の違いが売上構造にも影響を与えると考えられています。
■出典:トラック業界 売上高ランキング(2021-2022年)
日本のトラック業界の売上
商用車全体では、2050年度末の保有台数は1,142万3,000台(2020年度比24.7%減)、新車販売台数は48万4,000台(同39.1%減)と予測されています。
この予測は、主要産業における経済状況や物流需要、環境対応への意識、運輸の効率化などを総合的に分析した上での結果です。
以下、商用車の主な利用業種の見通しについてご紹介します。
【建設業】
東京五輪や震災復興需要の終了、世帯数や人口減少による新築住宅需要の縮小などにより、需要が減少傾向にあるとされ、車両の利用頻度や更新サイクルにも影響が出る見込みです。
【運輸業】
EC市場の成長により特定分野では需要が増加していますが、住宅建設の停滞、新型コロナによる世界経済の減速、ドライバー不足などが重なり、業界全体としては縮小傾向にあると予想されています。
より効率的な車両管理や、燃料コストの見直しが重要な課題となります。
【製造業】
生産拠点の海外移転、生産労働人口の減少、輸出依存型産業の厳しさなどにより、輸送量の減少が継続すると見られており、必要車両の種類や台数の見直しが迫られる可能性があります。
【農業】
農業従事者の高齢化や担い手不足により、輸送用途としての商用車需要が低下傾向にあります。
特に中型・小型車両の更新頻度が減少していくことが懸念されています。
【卸売業】
ECや直販の普及によって中間流通が減少し、業界自体が縮小しています。
そのため、効率化された配送ルートや台数制限による最適化が売上にも影響しています。
【小売業】
インバウンド需要やEC市場の成長があった一方で、パンデミックによる訪日需要の急落や実店舗の売上減少などにより、業界全体としては横ばいから縮小傾向へと移行しています。
物流業務のアウトソーシングも進むなかで、車両の保有形態やリース利用の割合にも変化が見られています。
このように、業界ごとに車両の用途や管理体制、購入傾向が異なるため、トラックの種類や仕様の選定も多様化していくことが予想されます。
■出典:3. 商用車市場の見通し
世界のトラック業界の売上
2022年の大型トラックの市場規模は2,045億6,000万米ドルとされており、2027年には3,139億5,000万米ドルに達すると予測されています。
2022~2027年のCAGR(年平均成長率)は約7.4%で推移する見込みです。
新型コロナウイルスの大流行により一時的に物流やサプライチェーンが寸断され、大型車両の生産が鈍化しましたが、近年はOEM(自動車メーカー)による大規模な設備投資や再編により、需要回復と生産再開が進みつつあります。
また、排ガス規制や燃料効率の向上、安全機能の強化といった環境対応が世界的に進んでおり、高機能・低燃費・高耐久を備えた新型トラックへのニーズが急増しています。
とくに欧州・米国・アジア各地域での比較・分析により、市場の成長性が裏付けられています。
この市場動向においては、単なる売上額だけでなく、製品ごとの特徴や用途に応じた戦略、市場ごとの規制への対応状況、地域別の販売比率などが大きな影響を与えると考えられます。
将来的には、効率化された輸送ネットワークの構築や、商用車のデジタル管理による最適運行の実現が期待されています。
■出典:大型トラック市場- 成長、動向、COVID-19の影響、予測(2023年~2028年)
今後のトラック業界の動向
近年、サービスやデジタル体験も含めた商品価値の設計により、車づくりの発想が大きく変化してきています。
これまでのように車両そのものの性能やスペックだけで差別化を図るのではなく、ユーザーにとっての用途ごとの利便性や操作性、管理のしやすさといった体験全体の価値が重視されるようになっています。
トラック業界の経営層の64%が、デジタル改革を今後の生き残り戦略において極めて重要であると認識している一方で、すでに本格的にデジタル変革が進んでいると答えた先駆者企業(業績が良く、革新的な取り組みを行う企業)は37%にとどまっています。
この意識と実践のギャップは、今後の業界再編や技術競争において大きな分岐点となる可能性があります。
未来に向けての動向を見据える上で、デジタル変革推進における主な課題は次の4つとされています。
1.新しい顧客体験の提供
運転支援機能や遠隔モニタリング、走行データのリアルタイム共有など、デジタル技術を活用した新しい顧客体験の提供が求められています。
ブランド価値の向上やドライバーの安全確保、車両の効率的な利用をサポートする仕組みが今後ますます重要になり、車両の種類別に導入される機能の差異も注目されています。
2.イノベーションと成長戦略
これまで売上の多くを構成していたトラック本体の販売やアフターマーケットに加え、予防保守サービスやクラウドベースの車両管理プラットフォームなど、新たな付加価値を持つサービスへの移行が進んでいます。
効率化された運用が、地域ごとの法規制やインフラ事情に応じたサービス提供と結びついていくことも見込まれます。
3.働き方の改革
イノベーションを支えるためには、組織内部の構造や働き方そのものの再設計が必要です。
とくに「プラットフォーム化」「自動化」「データ活用」は、車両のライフサイクル管理や物流効率の最大化に不可欠な要素です。
これにより、地域や用途に応じたトラック運用の柔軟性も高まり、従来の一律的な対応から脱却する動きが強まっています。
4.新たな専門性
デジタル改革を成功させるには、技術や分析能力、クラウド運用知識などの専門性を持った人材の確保が急務です。
そのため、リスキル・アップスキルを支援する教育体制の整備が進められています。教育予算は今後10年間で70%増加する見込みとなっており、企業規模に関わらず継続的な人材育成が重要なテーマとなります。
また、こうした変革はトラック業界に限らず、エネルギー転換・サステナビリティ・環境規制対応といった経済全体の流れとも連動しているため、業界間連携や国際比較の視点も不可欠です。
燃料の多様化や電動化に向けたサポート体制の整備が進む中、用途や地域ごとのニーズに合わせた車両開発・サービス設計が、今後の競争力を左右すると予測されています。
■出典:経営層が展望するトラック業界の10年。求められるデジタル・リインベンションの4要素
まとめ
トラック業界の今後の市場規模は、国内では人口減少や産業構造の変化を背景に縮小傾向が見込まれる一方で、海外、特に経済成長が著しいアジア地域では拡大が期待されています。
EC市場の拡大やインフラ整備の進展により、地域によっては大型トラックや中型トラック、小型トラックといったさまざまな種類の車両が用途に応じて求められており、需要の多様化も進んでいます。
国内においても、トラックの購買意欲は一定水準を保っており、特に燃費性能や安全性に優れた新型車、または業務の効率化を支える車両への関心が高まっています。
近年では環境規制や脱炭素の流れを受けて、燃料の多様化や排出ガスの削減技術、再生可能エネルギーへの対応といったテーマも車両開発の重要な方向性となっています。
こうした変化を踏まえ、トラック業界では2024年から2025年にかけて、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)分野への投資や、ITを活用した車両管理・物流分析の高度化が進む見込みです。
たとえば、リアルタイムな運行管理やメンテナンスの効率化などにより、企業の運営コストを抑えると同時に、安全性とサービス品質の向上を両立させる取り組みが加速しています。
このような自動車業界全体の構造転換に立ち向かうためには、各企業が単独で対応するのではなく、業界を越えた協業や連携を通じて知見とリソースを共有し合うことが望まれます。
とくに技術面や人材面では、専門性の高いサポート体制や教育プログラムを持つパートナーとの連携が、長期的な競争力につながっていくと考えられます。