
トラック運転手の労働時間が長い背景として、残業時間が長いという現状があります。
2024年4月1日より、トラック運転手の残業時間を含めた労働時間が見直されますが、それでも残業時間が長い現状が続く可能性は大いに考えられます。
このような背景から、企業としても運送業務の効率化や改善が求められていますが、それが実現できていない場合、労働者の疲労や健康問題にもつながりかねません。
そこで本記事では、トラック運転手の残業時間の現状に加えて、2024年問題や労働に関する無料相談先について詳しくご紹介します。
トラック業界の残業の現状
ドライバーが長時間労働になる原因
トラック業界では労働時間が定められているものの、定時で終業することはほとんどないと考えた方がよいでしょう。
定時で仕事が終わらない要因としては、「交通渋滞に巻き込まれた」「荷待ち時間が長い」などの理由があります。
これらはトラック運転手にとって不可抗力であり、自分の力で解決できるものではありません。
例えば、渋滞に巻き込まれないように早く出勤したり、荷待ち時間が長いことを見越して早めに出勤するのは「早残業」となってしまい、結果的に残業の扱いになってしまいます。
残業が長くなる他の要因には、慢性的な人手不足が挙げられます。
運送会社は収益を上げるために多くの荷物を請け負いますが、人手が少ない場合は在籍しているトラック運転手で荷物を配送しなければなりません。
少ない人数で荷物を配送するとなると、1人への負担が大きくなり、結果として残業が増えてしまいます。
このような労働環境において、トラック業界では残業が慢性的に続く現状が続いているのです。
2024年問題で残業時間はどう変わった?
トラック業界の残業を解消するために、2024年4月1日より労働基準法第36条を含めた改正労働基準法が施行され、トラック運転手の残業時間の上限が960時間までに制限されることになりました。
これまでのように上限のない残業が廃止され、トラック運転手の身体的・精神的負担は軽減されることでしょう。
一方で、トラック運転手の稼働時間が減少することで、社会では以下のような状況が生まれます。
・運送会社の利益減少
・配達料金の上昇
・トラック運転手の離職率増加
以下でさらに詳しく、労働基準法が改正される前後で残業時間がどう変わるのかについて見ていきましょう。
労働基準法改正前(2024年3月31日まで)の残業時間
労働基準法第32条では「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」と規定されています。
これをもとに、各会社の就業規則で定めた労働時間を「所定労働時間」といい、労働基準法第36条に基づいた「36協定」を締結することで、各会社が労働時間を定めることが可能です。
労働基準法第36条では、「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」と規定しています。
36協定を締結することで、1カ月の残業時間が45時間、1年につき最大360時間の労働時間の延長が可能です。
また労働基準法第36条5項では、特別な事情がある場合は、時間外労働年720時間以内、1カ月100時間以内、複数の月においての平均80時間以内、限度時間を超過して時間外労働させられるのは年6カ月という規定があります。
しかしこれらの法律は「自動車運転者業務」に区分されるトラック運転手には適用されないのです。
そのため、2024年3月31日までは、トラック運転手のルールは以下のように定められています。
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2024年3月31日まではトラック運転手の残業時間の上限規制がなく、年960時間以上残業させていても運送会社が行政指導を受ける可能性があったとしても、罰則を受けることはありません。
労働基準法改正後(2024年4月1日以降)の残業時間
2024年4月1日以降は労働基準法の改正に基づき、トラック運転手の残業時間が年960時間以内に制限され、時間設定の詳細も改められました。
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このように、これまで過酷だったトラック運転手の残業時間が緩和されました。
ただ、この緩和が社会に与える影響は少なくありません。
2024年問題:運送会社が取り組むべきこと
2024年4月1日より、トラック運転手の残業時間が制限されることにより、運送業界には次のような影響が予想されています。
・運送会社の利益減少
・配達料金の上昇
・トラック運転手の離職率増加
これらの影響は「2024年問題」と呼ばれ、運送業界にとって重要な課題となっています。
では、運送会社がどのような対策を講じるべきか、詳しく見ていきましょう。
運送会社の利益減少
トラック運転手の残業時間の上限が制限されることで、運送会社はこれまでよりも多くの荷物を配送することが難しくなります。
荷物の取り扱い量が減少するため、運送会社の利益が減少する可能性が高いです。
利益減少は運送会社にとって深刻な問題であり、最悪の場合、経営が成り立たなくなる可能性もあります。
そのため、運送会社は利益減少を回避するために、効率化や他の収益源を模索する必要があります。
配達料金の上昇
利益減少を補うためには、配達料金の値上げが避けられない場合があります。
しかし、配達料金が上がることで、荷主や個人の顧客負担が増加するため、顧客離れを引き起こすリスクも考えられます。
運送会社は、料金改定を行う際に、顧客満足度を維持するための対策も考慮しなければなりません。
たとえば、料金の上昇分をサービスの品質向上や効率化によって補うことで、顧客の理解を得る方法が考えられます。
トラック運転手の離職率の増加
残業時間の上限制限により、従来、残業手当で収入を増やしていたトラック運転手にとっては、収入の減少が避けられません。
この収入減少が転職の理由となり、離職率の増加を招く可能性があります。
運送会社は、運転手の離職を防ぐために、収入減少を補うための施策を考える必要があります。
例えば、基本給の引き上げや、効率的な労働時間管理、職場環境の改善などが求められます。
離職率が増加すると、ますます人手不足が進行し、運送業界全体の問題としてさらに深刻化する可能性があるため、早急な対策が必要です。
運送会社がこれらの課題にどう取り組むかが、今後の業界の安定性に大きく影響します。
これらの対策を講じることで、業界全体の持続可能な成長を実現することが求められています。
残業時間を超過すると罰則がある!
前述で「36協定」についてご紹介しましたが、残業を行うためには労働基準法に基づいた36協定の締結・届出が必要です。
36協定を締結せずに残業をさせた場合、労働基準法第32条に違反することとなり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
このような場合、運送業界における運営上のリスクも増加します。
また、36協定で定めた時間数を超過した場合でも、以下の状況では労働基準法第36条第6項違反となり、同様に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
・時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間以上となった場合
・時間外労働と休日労働の合計時間について、2~6カ月の平均のいずれかが80時間超過の場合
これらは、運送会社が労働基準法を遵守し、適正な運行管理を行う上で非常に重要なポイントです。
もしこれらを超過して残業させてしまうと、運送会社にとって経済的な負担だけでなく、業界内での信用失墜や法的リスクも伴うため、対策を講じる必要があります。
運送会社はこれらの法規制を十分に理解し、適切な労働時間管理を実施することが求められます。
適正な運行計画を立てることは、業界全体の労働環境の改善に繋がり、長期的には企業の持続可能な運営を支えることに繋がります。
残業時間を超過している!どうしたらいい??
残業時間を超過している場合、まずは残業手当が公正に支給されているかを確認する必要があります。
もし残業時間が過剰になっている場合でも、適切な対応を取ることで解決できる可能性があります。
ここでは、残業の証拠や残業代の請求方法についてご紹介します。
残業の証拠は何がある?
残業の証拠を示すためには、以下のものがあります。
・タイムカード
・デジタルタコグラフ(デジタコ)
これらは運送会社が設けている勤怠管理状況を示すものです。
運送業務においては、デジタコを使って運転時間が記録されることが一般的であり、これが証拠として有効となります。
また、タイムカードも重要な証拠となります。
さらに、自身でも出退勤時間を記録したり、メモを取ったりしておくと証拠の数が増え、請求がスムーズに進む可能性が高まります。
自分自身の労働時間管理は、万が一のための保険としても重要です。
残業代の請求方法
残業代を請求する場合、まずは運送会社にタイムカードやデジタコの記録を確認してもらってください。
これにより、残業時間の証明が可能となります。
また、前述のように、自身で残業時間を記録しておくのも一つの方法です。
もし残業代が支払われていない場合、これらの証拠を基に正当な請求を行うことができます。
請求の際は、できるだけ詳細な証拠を示すことで、スムーズに問題を解決することが可能です。
相談先について
残業代に関する問題については、まずは運送会社の事務部や経理部に相談してください。
これらの部署が勤怠管理や経理業務を担当している場合が多いため、対応してもらいやすいです。
また、万が一、会社内で解決が難しい場合は、労働基準監督署や労働組合などの第三者機関への相談も有効です。
法律的なサポートを受けることで、未払い残業代の支払いを確実に求めることができます。
もし残業代が支払われない場合、上記の内容を参考にして、必要な対応を取っていくことをお勧めします。
2024年問題や労働に関する無料相談はここ!
2024年問題や労働に関する事項で相談したいことがある場合、以下の機関で無料相談を受けることができます。
これらの機関は、法律や労働環境に関する問題を解決するためのサポートを提供しています。
無料相談①法テラス
法律に関わる問題を無料で相談したい場合、法テラスが非常に便利です。
法テラスは日本政府が設立した機関で、弁護士や司法書士による無料法律相談を受けることができます。
相談時間は通常20分ですので、事前に相談内容を端的にまとめておくとスムーズに利用できます。
2024年問題や労働に関する具体的な悩みがある場合でも、法的な観点からアドバイスを受けることが可能です。
無料相談②労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法に基づいて運営されていない企業に対して是正勧告を行っています。
残業時間の超過や残業代の未払いなど、労働基準法に違反している可能性がある問題が発生した場合、まずは労働基準監督署に相談することをお勧めします。
もちろん、相談料は無料ですので、安心して利用することができます。
労働者としての権利が侵害されている場合、労働基準監督署が適切な対応を行ってくれるため、早めに相談することが大切です。
これらの無料相談を利用することで、問題解決に向けた第一歩を踏み出すことができます。
より良いトラックでの運送会社を選ぶには?
2024年問題の影響は多くの運送会社に及んでいますが、そのような状況下でも良い環境で働ける運送会社に勤務したいものです。
ここでは、より良い環境で働ける運送会社の選び方についてご紹介します。
年収が低すぎないところ
厚生労働省が運営する『職業情報提供サイトjobtag』では、トラック運転手の平均年収は463万円と試算されています。
運送会社を選ぶ際には、まずこの平均年収を参考にし、年収が低すぎないかを確認しましょう。
また、賞与や各種手当の支給額が高い運送会社であれば、モチベーションが上がりやすく、仕事への意欲も持続しやすいといえます。
福利厚生の手厚さ
福利厚生は、社員の生活を支える重要な部分です。
運送会社を選ぶ際には、どのような手当や補助が提供されているかを確認することが大切です。
健康保険や労災保険、その他の生活支援に加え、社員のワークライフバランスを考慮したサポートが手厚い運送会社は、長期的に働きやすい環境を提供しています。
口コミはどうか
すべての運送会社に口コミがあるわけではありませんが、可能であれば社員の口コミや取引先の口コミをチェックすることをおすすめします。
社員の満足度や仕事環境が良い会社であれば、安心して勤務できるでしょう。
口コミを参考にすることで、運送会社の状態や文化を事前に把握でき、転職後のギャップを減らすことができます。
これらの要素をしっかりとチェックして、自分に合った働きやすい運送会社を選ぶことが、今後のキャリアにとって大切な一歩となります。
まとめ
2024年問題は運送会社だけでなく、荷主や私たち個人にも大きな影響を及ぼす問題です。
特に残業代の未払いについては、深刻な労働環境の一因となります。
もし残業代が支払われていない場合には、本記事に記載した通り、無料相談を含めて、速やかに行動することが重要です。
本記事を参考に、トラック運転手としての残業に関する知識を深め、より良い運送会社で働くための一歩を踏み出していただければと思います。
自身の労働環境の改善と、適正な労働時間の確保を目指して、より健全な職場を選んでいきましょう。