
玉掛け作業は、重量の重いものを動かす際に行なわれます。
玉掛け作業を行なうときは、講習や教育を受ける必要があることをご存知でしょうか。
正しい知識を身につけることで、安全に玉掛け作業を行なうことが可能です。
本記事では、玉掛け作業の1本2点吊りの基本とコツ、注意点について、
詳しく解説します。
玉掛け作業とは
玉掛け作業とは、クレーンなどを使用し、荷物を吊り下げる際に、
ワイヤロープなどの玉掛け用具をフックにかけたり外したりする作業のことをいいます。
クレーン作業の中で玉掛け作業は、非常に重要な作業であり、
安全が確保されなければなりません。
そのため、玉掛け作業を行なう方は、講習や教育を受けなければならないのです。
玉掛け作業については、運転ドットコムの下記の記事も役に立ちますので、
合わせて参考になさってください。
玉掛け作業に必要な資格と取得方法
玉掛け作業に必要な資格と、取得方法についてみていきましょう。
必要な資格
玉掛け作業を行なうには、以下のような講習教育の受講が義務となっています。
|
講習・教育 |
内容 |
1 |
玉掛け技能講習 |
1トン以上の荷物を吊り上げる場合に必要 |
2 |
玉掛け特別教育 |
1トン未満の荷物を吊り上げる場合に必要 |
公衆教育の内容としては、知識を学ぶ「学科」と技能を学ぶ「実技」が行なわれます。
クレーンの運転免許保持者や、玉掛け特別教育を修了している方は、
玉掛け技能講習の一部が免除となる場合があります。
上記の講習・教育の受講は、労働安全衛生法に基づいた資格です。
満18歳以上で、移動式クレーン運転士免許、クレーン・デリック運転士免許など、
特定の資格を持っている人が玉掛技能講習を受講できます。
資格の取得方法
玉掛け作業を行なう際の資格の取得方法は、以下のようになっています。
玉掛け特別教育
1トン未満の荷物を吊り上げる場合には、
以下の手順で、玉掛け特別教育を受けなければなりません。
|
手順 |
内容 |
1 |
申込 |
機関に講習の受講を申し込む |
2 |
学科講習 |
玉掛け作業に関する知識を学ぶ |
3 |
実技講習 |
実際に玉掛け作業を行なう |
4 |
修了証受領 |
講習修了後、修了証を受領する |
指定された学科講習・実技講習を受講すれば、
特に試験の受験はなく、修了証が交付されます。
受講費用は、教材費込で11,300円~18,000円程度です。
玉掛け技能講習
1トン以上の荷物を吊り上げる場合には、
以下の手順で、玉掛け技能講習を受けなければなりません。
|
手順 |
内容 |
1 |
申込 |
機関に講習の受講を申し込む |
2 |
学科講習 |
玉掛け作業に関する知識を学ぶ |
3 |
学科試験 |
学科講習内容に基づいた学科試験を受ける |
4 |
実技講習 |
実際に玉掛け作業を行なう |
5 |
実技試験 |
玉掛け作業の技能評価のための実技試験を受ける |
6 |
修了証受領 |
講習修了後、修了証を受領する |
講習は、各都道府県の労働基準協会連合会や、クレーン教習所などで行なわれています。
また、千葉県にある五井自動車教習所のように、外部機関が主催する講習もあるのです。
玉掛け技能講習を修了すると、玉掛け特別教育は免除となります。
玉掛け技能講習の講習費用は、20,000円台が目安です。
玉掛けの1本吊りと2本吊りをする場面
玉掛けの1本吊りと2本吊りをする場面には、以下のような場面があります。
玉掛けの1本吊り
玉掛けの1本吊りの場面は、次の通りです。
|
例 |
内容 |
1 |
単純形状の吊り荷 |
円盤状プレート、重心が真ん中の荷物などを吊り上げる |
2 |
軽い吊り荷 |
重量が軽い荷物などを吊り上げる |
3 |
緊急時 |
緊急時や、2本吊りの準備ができない場合 |
玉掛けの2本吊り
玉掛けの2本吊りの場面は、次のようになっています。
|
例 |
内容 |
1 |
重心が片寄った吊り荷 |
重心に偏りがある荷物の場合、2本吊り以上で、重心の片寄りを補う |
2 |
重い吊り荷 |
重さを分散させ、安定した吊り上げる |
3 |
複雑な形状の吊り荷 |
2本吊り以上で、複数の点で支えて吊り上げる |
玉掛けの1本吊りと2本吊りをする際の準備
玉掛けの1本吊りと2本吊りをする際の準備についてみていきましょう。
ワイヤロープまたはスリング
吊り荷の重量に耐えられる適切なワイヤロープまたはスリングを選びます。
ワイヤロープではアイ付きのものを選択し、
スリングの場合は、スリングの長さと吊り角度を考えて選ばなければなりません。
スリングを2本以上使う場合は、
それぞれのスリングの長さが同じになるように調整しましょう。
フック
吊り荷の形状と重さに合ったフックを選んでください。
安全用品
玉掛け作業を行なう場合は、
ヘルメット、安全靴など、安全用品を必ず身につけましょう。
その他
吊り荷の重量を測る計量器、吊り荷のバランスを調整するための道具が必要です。
1本吊りと2本吊りの手順
玉掛けの1本吊りと2本吊りの手順についてみていきましょう。
1本吊りの場合
1本吊りの場合の手順は、以下の通りです。
・作業準備
・荷掛け
・地切り
・運搬
・着床
・荷外し
・片付け
では、手順の詳細についてみていきましょう。
作業準備
玉掛け作業に必要な道具や服装を用意し、吊り荷の重量、重心などを把握した上で、
安全な玉掛け方法と必要なスリング本数を決めます。
荷掛け
吊り荷の重心位置にスリングを掛け、
吊り角度が30度~60度以内に収まるように調整してください。
地切り
吊り荷を、若干吊り上げ、一旦停止し、バランス状態、異常確認し、
問題があれば掛け方を修正します。
運搬
吊り荷を移動させ、安全な場所に設置します。
着床
吊り荷を目的とする場所に到着させ、荷を設置しましょう。
荷外し
吊り荷を少しずつ降下させ、スリングを荷から外します。
片付け
使用した道具やスリングは、整理整頓しておきましょう。
2本吊りの場合
2本吊りの場合も、上記の1本吊りと同じ手順で作業します。
2本吊りは、荷掛けの際に、2本のワイヤロープを荷の底面で交差させて掛ける点が、
1本吊りとの違いです。
1本吊りと2本吊りのコツ
1本吊りと2本吊りのコツについてみていきましょう。
吊り荷の確認
吊り荷の確認は非常に大切で、あいまいな判断で作業すると事故を起こしてしまいます。
吊り荷の情報を正確に把握し、適切な吊り具を選びましょう。
吊り方の決定
正確な吊り荷の情報が把握できれば、吊り荷に合った吊り方を考えなければなりません。
吊り荷の形状、使用場所などをみて、掛け本数や掛け方を決めてください。
荷重の計算
吊り荷の重さ・形状を基に、吊り具の使用荷重を計算しましょう。
荷重の計算を間違うと、大きな事故につながってしまいます。
吊り具の決定
最後に、条件に合った吊り具を選ぶことが大切です。
適切な吊り具が分からない場合は、
吊り具を製作しているメーカーに問い合わせるといいでしょう。
1本吊りと2本吊りのメリットとデメリット
1本吊りと2本吊りのメリット・デメリットについてご紹介します。
1本吊りの場合
1本吊りについてみていきましょう。
メリット
まずは、メリットについてご紹介します。
作業が簡単
1本吊りの場合、吊り具の作業が1本だけであるため、時間や労力が抑えられます。
吊り具が少ない
吊り具の個数が少ないことから、準備・整理が簡潔に済ませられます。
コスト削減
吊り具にかかる費用が安く抑えられます。
デメリット
続いて、デメリットは以下の通りです。
吊り荷が不安定
1本吊りの場合は、吊り荷が揺れる、吊り荷が回転する可能性が高くなります。
ワイヤロープの強度が下がる
吊り荷が回転すると、ワイヤロープに負担がかかり、強度が下がってしまいます。
作業が複雑になる
荷を安定させるために、吊り荷の角度や位置を正確に把握するなど、
作業が複雑になることが考えられます。
2本吊りの場合
続いて、2本吊りについてみていきましょう。
メリット
メリットについては、以下の通りです。
安定性が高まる
2本で吊り上げると、安定性が高まりますので、偏りなどを防ぐことができます。
安全性が高まる
荷重が2本の吊り具に分散されるため、
吊り具1本あたりの負担が小さくなり、安全性が高まります。
正確な作業が実現できる
荷の調整などを簡単に行なうことが可能です。
デメリット
続いて、デメリットについてみていきましょう。
作業が複雑になる
2本のワイヤロープを調整しなければならないことから、作業が複雑になります。
荷重の偏りが生じる
吊り荷のどちらか一方に荷重が偏った場合、
荷が安定しませんので、吊り荷の形状や重量をしっかり確認する必要があります。
スペースの確保
ワイヤロープを2本吊り下げるためには、狭い場所での作業は難しいですので、
広いスペースを確保しなければなりません。
玉掛けの安全のための判断基準
玉掛けの安全のための判断基準についてみていきましょう。
吊り具の点検
安全を確保するためには、以下のように吊り具の点検は必須です。
|
道具 |
内容 |
1 |
ワイヤロープ |
亀裂、腐食、磨耗、変形、ねじれの有無などを確認 |
2 |
チェーン |
伸び、断面減少、亀裂、アークストライクの有無などを確認 |
3 |
シャックル |
開き、縮み、ねじれ、磨耗、亀裂の有無などを確認 |
4 |
フック |
爪の損傷、ひび割れ、アークストライクの有無などを確認 |
5 |
その他 |
吊り具のピン、ボルト、リングなどを点検 |
各メーカーは、使用限界を定めていますので、必ず確認して限界を遵守してください。
吊り角度
吊り角度は、60度以内が望ましいとされており、原則として90度以内です。
吊り角度が大きいと、事故を起こす可能性が高まります。
吊り荷の重心
吊り荷の重心を把握し、吊り荷をバランスよく吊り上げる必要があります。
重心の位置が把握できなければ、吊り荷が傾いてしまい、事故へと発展してしまいます。
作業者の安全意識
玉掛け作業は、作業者だけでなく、周囲に業務に携わっている人が複数いますので、
全員の安全を確保しなければなりません。
「3・3・3運動」(吊り荷を落とさない、吊り荷の下に入らない、吊り荷にはさまれない)
を心掛けたり、危険を予知を行ない、危険回避の対策をとる必要があります。
玉掛けの際の注意点
玉掛けの際の注意点についてみていきましょう。
吊り荷の下に入らない
吊り荷の下に入ると、吊り荷が落下した際に、直撃する可能性が高くなります。
万が一、吊り荷の下に入らなければならない場合は、
安全対策を採った上で入るようにしましょう。
玉掛け具の安全確認
ワイヤーロープなどの玉掛け具に問題がないかを、目視で確認してください。
サビや亀裂がある場合は、使用を継続せず、部品の交換をしましょう。
合図の確認
玉掛け作業の安全確認は、作業者だけでは不十分です。
作業者と合図者がスムーズに意思疎通を行ない、
正しく合図を理解しているかを確認し合いましょう。
まとめ
玉掛け作業の1本2点吊りの基本とコツ、注意点について、
ご理解深まりましたでしょうか。
玉掛け作業を行なう際は、安全第一で行なわなければなりません。
安全に作業を行なうためには、十分な知識をもった上で、
作業にあたる必要があるのです。
作業する際は、玉掛け具などの設備の状態もしっかり確認してください。
本記事を参考に、安全な玉掛け作業をしていただけると幸いです。