
石油やガス、化学薬品などの液体や気体を安全に運ぶために使用されるタンクローリーは、特殊な構造と機能を持った車両です。
運転には一般的な免許だけでなく、運転免許の中でも中型免許や大型免許、場合によっては牽引免許が必要になることがあります。
また、タンクに積載する内容物によっては、危険物取扱者(乙種・丙種など)などの資格が求められる場合もあります。
この記事では、タンクローリーを運転するために必要な各種免許や資格の種類、取得方法や費用の目安、さらには教習所での流れや運転時の注意点などをわかりやすく解説します。
中型車や特殊車両に興味がある方、タンクローリー運転の仕事を探している方、また転職先として検討している方にも役立つ情報をまとめています。
将来的に運送業界でのキャリアをお考えの方や、求人情報をチェックしている方にとっても、知っておくべきポイントが多数あります。
タンクローリーの特徴や最大積載量、輸送の安全性に関する知識も含め、実務に役立つ内容を紹介していますのでぜひ最後までご覧ください。
タンクローリーとは?
タンクローリーとは、一般的なトラックでは運ぶことができない液体や気体、粉粒体などの特殊な荷物を、安全かつ効率的に輸送するために設計された特殊車両です。
車体に取り付けられたタンク構造は運搬物の種類に応じて異なり、それぞれ対応する法律や取扱方法も違います。
通常のトラックと比べて、構造が複雑かつ高度であり、最大積載量や耐圧性、材質の違いなど、安全面においても特別な配慮が必要です。
そのため、中型免許や大型免許、牽引免許といった運転免許の条件に加え、危険物取扱者の資格(乙種や丙種)などの国家資格を求められるケースも多くあります。
タンクローリーは、運搬物の性質によって以下の3種類に大きく分類されます。
危険物ローリー
最もよく見かけるのが危険物ローリーです。
これは消防法に基づいて設計されており、ガソリン・灯油・軽油といった石油系燃料や、劇物・薬品などの引火性の高い液体を輸送するために使用されます。
これらは火災や爆発のリスクがあるため、タンクや荷台の形状・素材も厳格に規制されており、運転者にも高度な知識と責任感が求められます。
粉粒体運搬車ローリー
粉粒体ローリーは、セメント・石灰・小麦粉・砂糖・飼料などの粉体・粒体状の物質を輸送する専用の車両です。
農場や食品工場、建材関連の現場などへの搬入に用いられることが多く、内容物によっては腐食しにくいステンレス製のタンクが使用されることもあります。
運搬中に粉塵が飛散しないよう密閉性の高い構造が採用されている点が特徴です。
高圧ガスローリー
高圧ガスローリーは、可燃性ガス・毒性ガス・酸素・液体窒素・重油などを高い安全性のもと輸送する車両です。
タンクは高圧に耐える設計となっており、円筒型構造が採用されています。
運転には非一般的な技術や特別な知識が必要で、現在では高圧ガス保安法に基づきさらに徹底した管理や監視体制が義務付けられています。
タンクの内容物によっては、気体の分類や容量、引火性の有無を考慮した運用が求められます。
タンクローリーを運転するために必要な免許
タンクローリーは構造が特殊な車両であり、一般のトラックとは異なる運転技術や資格が求められます。
運搬物の種類や車両のタイプに応じて、必要な運転免許や国家資格は変わりますが、多くのケースで共通して必要になるのが「大型自動車免許」と「けん引免許」です。
さらに、輸送する物質に応じて「危険物取扱者乙4類」「高圧ガス移動監視者」「毒物劇物取扱責任者」などの法令に基づく資格が必要になる場合もあります。
これらの免許や資格は、安全かつ法令順守のもと輸送業務を行うために必須とされています。
以下では、それぞれの資格の概要や取得方法、注意点などをわかりやすく解説します。
大型自動車
タンクローリーには小型・中型・大型といったさまざまなサイズがありますが、運送業者が業務で使用する多くの車両は大型タンクローリーです。
そのため、運転には大型自動車免許が必要とされることが一般的です。
大型自動車免許を取得すると、車両総重量11トン以上、最大積載量6.5トン以上の車両を運転できるようになります。
これにより、重量のある特殊な荷台構造を持つタンクローリーも対応可能になります。
取得条件には以下が含まれます。
・21歳以上であること
・通算3年以上の運転経歴を持つこと
・視力・聴力などの身体要件を満たすこと
2007年の法改正により、以前は「20歳以上・2年以上の運転経験」で取得可能だった基準が引き上げられ、より厳格な条件が設けられています。
これは、過去の重大事故や違反の増加を受け、安全確保の観点から実施された背景があります。
けん引免許
セミトレーラー型のタンクローリーを運転する際に必要なのがけん引免許です。
特に中型・大型のけん引車両を操作する場合には、普通免許だけでは対応できず、別途この免許が必要になります。
けん引免許の取得にあたっての主な条件は以下のとおりです。
・普通自動車免許の所持(前提条件)
・技能試験および学科試験の合格
けん引免許を持つことで運転できる車両には「けん引自動車」と「けん引限定自動車」の2種類があります。
「けん引自動車」はより幅広い車種のけん引が可能ですが、「限定車両」の場合は用途が制限されており、用途や業務内容に応じた車両選定が重要になります。
危険物取扱者乙4類
タンクローリーでガソリン・灯油・軽油などの危険物を輸送する際には、「危険物取扱者乙4類」の資格が必要となることが多いです。
乙4類は、石油類・アルコール類・有機過酸化物など、消防法上の指定危険物の取り扱いが許可される資格です。
この資格を取得することで、以下のような業務の幅が広がります。
・危険物ローリーの運転
・積載物の点検・管理
・現場での危険物対応
受験には年齢制限はなく、誰でもチャレンジ可能です。
試験はマークシート方式で実施され、合格基準は各科目60%以上の正答率。
地域によっては年間複数回の実施がありますので、早めに受験予定地のスケジュールを確認すると安心です。
高圧ガス移動監視者
LPガスや液体窒素などの高圧ガスを運搬するタンクローリーにおいては、「高圧ガス移動監視者」の資格取得が義務づけられています。
これは、高圧ガス保安法に基づき、輸送中のガスに異常がないかを監視し、安全を確保するための責任者として求められる資格です。
資格取得の流れは以下の通りです。
・2日間の講習を受講
・修了後の試験に合格
合格率はおおよそ85%前後とされており、一定の準備をすれば未経験者でも十分に合格が目指せます。
また、資格取得後も一定期間ごとの更新講習が義務づけられており、知識と意識を常に最新に保つ必要があります。
毒物劇物取扱責任者
タンクローリーでアンモニア・塩素・劇薬類などを輸送する業務に従事する際には、「毒物劇物取扱責任者」の資格が必要です。
これは、毒物及び劇物取締法に基づく資格で、薬品や劇物の安全な管理・記録・保管を担う責任ある立場となります。
主な取得要件は以下のとおりです。
・18歳以上であること
・各都道府県で実施される国家試験に合格すること
試験は年1回程度の頻度で実施されており、合格後には都道府県への届け出が必須です。
この資格を持つことで、毒性のある液体やガスの輸送作業における安全管理業務にも対応できるようになります。
なお、職場によっては資格手当や職務範囲の拡大が見込める場合もあるため、キャリア選択の一環としても注目されています。
タンクローリーを運転するための免許取得に掛かる費用
タンクローリーを運転するには、搭載する荷物の性質や車両の種類・構造に応じて、複数の運転免許や資格を取得する必要があります。
免許の種類によって費用は異なり、受講方法や地域によっても金額に幅があります。
ここでは、代表的な資格・免許ごとの取得にかかる費用の目安を紹介します。※費用は2025年現在の一般的な相場です
大型自動車免許の取得費用
タンクローリーの多くは最大積載量が6.5トン以上あるため、大型自動車免許が必要となるケースが大半です。
取得方法によって費用は以下のようになります。
・通学型教習所の場合:約25万円前後
・合宿型の場合:約20万円前後
・一発試験(試験のみ受験):約4万円前後
教習所では、教習内容や時間割、検定試験の回数によって総額が前後することもあります。
各教習所のコース内容や料金表をあらかじめ確認し、自分に合った方法を選ぶとよいでしょう。
けん引免許の取得費用
けん引免許は、セミトレーラー型のタンクローリーを運転するために必要です。
普通自動車免許をすでに所持していれば、以下の費用で取得できます。
・通学型・合宿型ともに:おおよそ12万円程度
けん引免許は試験の難易度がやや高めとされており、実技練習時間の確保が合格へのカギとなります。
事前に技能試験の内容や練習コースの特徴を確認しておくと安心です。
危険物取扱者乙4類の取得費用
危険物ローリーの運転に欠かせない「危険物取扱者乙4類」の資格取得には、以下の費用がかかります。
・試験・申請料・参考書代を含めて:約1.2万円〜1.5万円
この資格は、ガソリンや灯油、引火性液体などの取扱に関する知識を問われる国家資格です。
テキストや問題集の利用、講習付き対策講座の受講など、自分に合った学習スタイルを選択することで、効率よく合格を目指すことができます。
高圧ガス移動監視者の取得費用
高圧ガスローリーの運転に必要な「高圧ガス移動監視者」の資格取得にかかる費用は以下の通りです。
・2日間の講習・試験費用含めて:約2万円程度
講習では、高圧ガスの分類や性質、輸送中の監視ポイント、事故時の対応方法などを学びます。
講習は各都道府県で開催されており、申込時期や定員に注意が必要です。
毒物劇物取扱責任者の取得費用
こちらの費用相場は次の通りです。
・地域差あり:1.0万円〜1.2万円程度
都道府県によって試験の実施日や出願方法が異なるため、事前に自治体のホームページで情報を確認することをおすすめします。
資格取得後には、各都道府県への登録(届出)が必要です。
その他の費用に注意
上記の資格・免許取得費用以外にも、次のような追加費用が発生する場合があります。
・更新講習の受講費用(例:高圧ガス移動監視者は一定期間ごとに更新が義務)
・再試験の受験料
・参考書や模擬試験教材の費用
・健康診断書など必要書類の取得費用
また、タンクローリー業界では指定教習所での一括受講プランや、会社負担による資格取得支援制度を導入しているケースもあります。
求人情報や会社の制度を確認することで、費用面の負担を軽減できる可能性もあります。
タンクローリー運転手の給料(年収)
タンクローリー運転手として働く場合の平均年収は、一般的に約400万円〜500万円程度とされています。
これを月収に換算すると約25万円〜40万円であり、運送業界の中でも比較的高めの水準に位置しています。
特に、業務内容が危険物や高圧ガス、劇物などの輸送を含む場合は、危険手当や特殊作業手当が支給されることも多く、給与の上乗せにつながるケースが見られます。
給与の金額には、以下のようなさまざまな要素が影響します。
・勤務地(都市部か地方か)
・会社の規模や運営形態(株式会社か個人経営か)
・運搬する荷物の種類(危険物・食品・セメントなど)
・保有資格(危険物取扱者乙4類・高圧ガス移動監視者など)の有無
・勤務形態(長距離か近距離か、日勤か夜勤か)
たとえば、都市部の交通渋滞が激しい地域で長時間運転をするドライバーや、深夜帯の運行がある職場では、時間外手当や深夜手当などが加算されることもあります。
また、最大積載量が大きなローリー車を運転する業務では、高度な技術と責任が求められるため、基本給が高めに設定されている傾向があります。
賞与(ボーナス)について
賞与は企業ごとに異なりますが、年2回(夏・冬)の支給が一般的であり、その金額は月給の1〜2ヶ月分程度が相場です。
業務の性質や取扱う貨物の分類によって支給額に差が出ることもあるため、事前に会社の支給実績を確認しておくと安心です。
一部の企業では、無事故期間に応じた報奨金制度や、資格手当、更新講習手当などを設けている場合もあり、努力やスキルに応じて評価されやすい業界でもあります。
タンクローリー運転手の給料は高い?
タンクローリー運転手の給料が一般的なサラリーマンの平均年収(約450万円前後)と同程度かやや高めと言われる背景には、以下のような要因があります。
・危険物や高圧ガスなどの取扱いが求められる高リスク業務
・構造が特殊な車両の運転技術が必要
・高度な運転スキルや事故防止意識が求められる
・法令遵守や荷物の安全管理が厳密に求められる
これらの要素によりタンクローリー運転手は責任の重い専門職とされ、仕事内容やリスクの高さに見合った報酬水準が設定されているといえます。
また、近年では運送業界全体で人手不足が続いている影響もあり、タンクローリー運転手の求人においては待遇改善や資格支援制度の整備が進められています。
就職・転職の際は、仕事内容や労働条件を丁寧にチェックすることが重要です。
まとめ
タンクローリーの運転には、運搬物の種類や車両の構造に応じた免許や資格が必要となります。
基本的には大型自動車免許やけん引免許をはじめ、危険物取扱者乙4類や高圧ガス移動監視者、毒物劇物取扱責任者などの資格が求められることがあります。
これらの資格を取得することで、対応可能な車両の種類や積載物の分類が広がり、業務の幅も増えるため、求人での採用条件を満たしやすくなったり、給与面での優遇が受けられたりするメリットがあります。
高圧ガスや引火性の液体、腐食性のある劇薬類などの輸送には、より高度な知識と管理能力が必要なため、資格の有無が仕事の選択肢や待遇に直結することも少なくありません。
資格取得には一定の費用や学習期間が必要ではあるものの、教習所や講習、受験制度も整備されており、働きながらでも取得を目指しやすい環境が整っています。
とくに現在、運送業界全体で人材不足が深刻化していることから、資格取得支援制度や教育体制を整備する会社も増加しています。
将来的にタンクローリー運転手としてのキャリアを築きたいと考えている方にとっては、これらの資格を段階的に取得していくことが、就職・転職活動での強みにつながるでしょう。
仕事内容・車両の特徴・法律上の要件をしっかり把握したうえで、自分に合ったステップで準備を進めてみてください。