トラックドライバーの労災について知りたいと考えている方は、多いのではないでしょうか。
トラックドライバーは、荷物の積み下ろし作業による腰痛や、荷物運搬中の交通事故など、労働災害の発生リスクが高いです。
本記事では、知っておくべきトラックドライバーの労災について、事例を交えながら紹介します。
トラックドライバーの労災状況
トラック運送における労働災害防止団体の陸上貨物運送事業労働災害防止協会は、令和4年の労働災害発生状況を公表しました。
死亡者数は前年に比べ減少していますが、死傷者数は年々増加傾向にあります。
事故の型別では交通事故による死亡が最も多いです。
コロナ禍で運送業の需要が増加し、比例して死傷災害も増加したと考えられます。
荷役作業時の災害防止のため、厚生労働省は「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」を定めました。
しかし労災発生件数をみると、ガイドラインを1人1人が徹底しているとはいえません。
ガイドラインに則り、作業中の突発的な事故だけでなく、長期にわたる身体への負荷による労災を減少させることが必要です。
■出典:
陸上貨物運送事業労働災害防止協会「労働災害発生状況」
厚生労働省「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」
原因
労働災害は安全衛生管理に欠陥がある状態で、作業道具や環境などの物的要因と不安全な行動などの人的要因が重なることで生じています。
労働災害では、双方または一方の要因を取り除くことで、労災の発生防止が可能です。
トラックドライバーは労災による死傷事故が多く、運搬中の交通事故やトラック荷台からの転落事故などが多くなっています。
長時間同じ姿勢の保持や積み下ろし作業による腰痛、他業種より長い稼働時間による過労なども労災の原因です。
労働災害の要件
業務中に生じた事故の全てが労働災害に該当するわけではなく、通勤災害または業務災害が生じたと判断される必要があります。
労災保険の対象範囲には正社員だけではなく、パートタイムやアルバイトなど非正規雇用も含まれ、保険料は全額事業主の負担です。
通勤災害
通勤災害は、通勤により労働者が被った傷病をいいます。
通勤と認められるのは以下の場合です。
・住居と就業場所との往復
・単身赴任先の住居と帰省先住居との往復
・就業場所から他の就業場所への移動
また上記に該当するだけでなく、就業に関した合理的な経路と方法で移動を行うことが必要です。
合理的な経路からの逸脱や、通勤とは関係のないことを行った場合、通勤とは認められません。
ただし日常生活に必要な行為のためであれば、行為終了後に合理的な経路に戻ると通勤と認められます。
業務災害
業務災害とは、業務が原因で労働者が被った災害をいいます。
業務災害と認定されるためには以下の要件が必要です。
・業務遂行性…労働者が事業主の支配下にある状態
・業務起因性…業務と傷病の間に因果関係がある状態
作業中の災害は、原因が故意的・私的であった場合を除き、大部分が業務災害と認定されます。
また作業の中断が生理的な行為による一時的なものである場合は、業務に付随する行為と見なされ、作業中と同一視されます。
トラックドライバーが認可される労災3選
トラック運送業界の労働災害発生件数は年々増加しています。
さまざまな労災がありますが、トラックドライバーの業務の特性上、認可されやすい主な労災は以下の3種類です。
・体調不良
・精神障害
・交通事故
体調不良
特定業務の長時間労働が原因で体に不調をきたした場合、労災が認可されます。
トラックドライバーは、長時間運転や荷物の積み下ろし作業などを日常的に行う仕事です。
腰痛や運動器障害などは、身体に過度な負荷がかかったことを原因とする疾病とされ、労災と認められます。
ただしぎっくり腰は日常的な動作の中でも生じるため、業務中に発症しても認められない場合が多いです。
精神障害
労災の認定範囲は身体の不調だけでなく、業務が原因となった心理的負荷による精神障害にも適用されます。
パワハラやセクハラ、時間外労働などの心理的に大きな負荷を与える要因が、仕事によるものであった場合に発症した精神疾患が対象です。
ただし仕事によるストレスと私生活でのストレスが同時期にあった場合、発病の原因を慎重に判断する必要があります。
交通事故
トラックドライバーはもちろん運送業に従事する人は、交通事故のリスクと常に隣り合わせです。
業務中や通勤中に交通事故に巻き込まれた場合、労災が適用されます。
交通事故に遭った場合、支給調整がされますが、労災保険と加害者が加入している任意保険から補償を受けることが可能です。
トラックドライバーの労災事例
運送業は死傷事故が発生しやすい業種です。
労災発生状況は製造業や建設業に次いで高い数値となっています。
積み下ろし作業時の事故や運搬中の交通事故など、多くの業務で事故が生じやすいです。
ここではトラックドライバーの労災事例を2つ紹介します。
荷物の積み下ろし作業
倉庫内で荷物の積み下ろし作業中に、後方確認をせずに後退したトラックに巻き込まれ死亡した事故があります。
業務中の事故のため、業務災害と認定され遺族に労災保険の給付が行われました。
また積み込み作業中に誤ってトラックの荷台から落下する事故が多発しています。
保護帽や安全帯の使用を徹底することで事故の防止が可能です。
トラックで運ばれた機械の荷降ろし中に、トラックが傾いたことで機械が落下し、下敷きとなる事故が起きた事例もあります。
傾斜のある場での作業や最大積載量の超過などが原因です。
交通事故
荷物の運搬中に自動車や自転車、歩行者と衝突する事故が多く発生しています。
トラックは死角が多いため、特に左折時に自転車や歩行者を巻き込む事故が生じやすいです。
また中央分離帯を乗り越え反対車線に侵入した事例や、カーブで曲がりきれず横転した事例があります。
交通事故の原因として安全不確認や漫然運転が多くなっています。
運転し慣れた道であっても、速度や車間距離を維持し、安全確認を怠らず緊張感を持ち運転することが重要です。
労災の補償範囲
労災の補償とは、業務上または通勤中の傷病について、労災保険から給付を行う制度です。
傷病が労災と認定された場合の補償について表にまとめました。
補償条件 | 補償内容 |
---|---|
労災指定病院で治療した場合 | 治療費無料 |
労災指定病院以外の病院で治療した場合 | 治療費は一時立て替え |
働けずに4日以上が経過した場合 | 平均賃金の6割を休業補償 |
治療後1年半が経過しても回復せず傷病等級が1〜3級の場合 | 等級に応じた給付額を傷病補償 |
働けない間の給料を受け取れる休業補償は初日から受けられるわけではなく、例えば働けない日数が2日の場合、医療費は自身での支払いが必要です。
業務遂行性と業務起因性を満たしている場合、腰痛だけでなくうつ病や睡眠障害、長時間労働による過労死なども補償の対象となります。
まとめ
本記事ではトラックドライバーの労働災害について、要件や事例を紹介しました。
職業に関わらず労災の要因や要件、どのような事例が補償の対象となるか、また補償の範囲はどれほどかについて知っておくべきです。
トラックドライバーに興味がある方は、本記事を参考にしてみてください。