トラックの自賠責保険と任意保険の基礎知識を、一般貨物運送事業者の方や運送事業に興味がある方に向けて解説します。
トラックの自賠責保険とは?
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険または自賠責共済)は、人身事故の被害者を救済することを目的とした制度です。
自動車損害賠償保障法により、すべての自動車に加入が義務付けられています。
未加入のまま運転した場合は、刑事罰が科せられ、さらに行政処分となります。
【刑事罰や行政処分の内容】
・未加入で運転した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられ、さらに免許停止処分となる
・自賠責保険の証明書を所持していない場合、30万円以下の罰金が科せられる
・未加入で人身事故を起こした場合、任意保険に加入していても、支払われる賠償金は自賠責保険の補償限度額を超えた金額のみ
トラックと乗用車の保険の違い
補償内容は同じですが、用途や種類によって、保険料が異なります。
基本は同じ
乗用車と同様に、車両購入時に加入し、車検時に更新します。
無保険期間が生じないように、車検期間をカバーできる保険期間を設定します。
補償内容も乗用車と同じです。
トラックは積載量や用途で保険料が変わる
用途や種類によって保険料が異なります。
下表は、2023年4月以降の13か月契約の保険料を車種別にまとめたものです。
自家用自動車よりも事業用自動車(緑ナンバーまたは黒ナンバーの自動車)のほうが、乗用車よりもトラックのほうが、保険料は高くなっています。
■出典:自動車損害賠償責任保険基準料率
例えば、緑ナンバーの中型トラックや大型トラックの場合、自家用乗用自動車の2倍以上の保険料がかかります。
【自賠責保険の引き下げとは】
2023年4月以降の契約から、自賠責保険の保険料が引き下げられました。
保険料は、「純保険料率」と「付加保険料率」とに分けられます。
将来の保険金の支払いに充てられるのが純保険料率、契約の事務処理といった経費などに充てられるのが付加保険料率です。
また、自賠責保険は損失も利益も出さないようにする「ノーロス・ノープロフィットの原則」に従って運用されています。
近年は交通事故の件数が減少傾向にあり、それにともなって保険金の支払い額も減少傾向にあります。
自動ブレーキなどの安全技術が向上していることもあり、純保険料率が引き下げられて、2年ぶりに値下げとなりました。
自賠責保険の補償内容
自賠責保険は、被害者のけがや死亡による損害を補償するものです。
そのため、加害者のけがや物的損害(自動車の修理代など)に対しては、保険金は支払われません。
また、示談交渉も含まれていません。
補償内容は傷害、後遺障害、死亡の3つとなっていますが、被害者1人あたりの支払限度額があります。
詳細は下表のとおりです。
損害の内容 | 補償の範囲 | 限界度 |
傷害または死亡に至るまでの傷害 |
・治療関係費 ・文書料 ・休業損害 ・慰謝料 |
120万円 |
後遺障害 |
・逸失利益 ・慰謝料等 |
障害の程度により、75万円~4,000万円 |
死亡 |
・葬儀費 ・逸失利益 ・慰謝料(被害者と遺族) |
3,000万円 |
補償内容のほかに注意したいのが、死亡や後遺障害によって、限度額をはるかに上回る損害額が認定された判例があることです。
例えば2011年の判例では、死亡した41歳男性眼科開業医に対して、4億円を超える逸失利益などが認定されました。
横断禁止規制のある道路を横断していたことや発生が深夜であること、酒に酔って道路内にたたずんでいたことなどの事情が考慮されており、過失割合は被害者が60%となっています。
■参考:重要判例【横浜地判平成23年11月1日】41歳男子眼科医の死亡逸失利益4億7852円余ほか総額5億2853円余認定、横断禁止場所横断等で60%過失相殺
任意保険に加入していない運送会社もある
ほとんどの運送会社は、「対人賠償(無制限)」と「対物賠償」の任意保険には最低限加入しています。
任意保険とは
自賠責保険の不足分を補償する自動車保険です。
対物賠償や人身傷害などの保険を組み合わせて加入します(下表参照)。
下表のほかにも、走行不能となった車両をレッカー車で搬送する費用が支払われるなど、さまざまな特約があります。
ヒト | モノ | |
相手 | 対人賠償(自賠責保険の補償額を超える部分) | 対物賠償 |
自分 |
・人身傷害 ・搭乗者傷害 ・無保険車傷害 ・自損事故 |
車両 |
■参考:自動車保険(任意)とは?
任意保険はモノや車の補償も対応
自動車の損害も補償内容に含まれます。
また、相手のモノの補償も対象となる保険です。
対物賠償の場合、カードレールなどの公共物や家屋を壊したとき、電車を運行不能にさせたときなどに、保険金が支払われます。
任意保険は保険内容を選べる
対物賠償や人身傷害など、保険内容を選んで加入します。
手厚い補償が理想的ではありますが、補償が充実するほど保険料も高くなるため、どれが必要なのかを判断する必要があるでしょう。
内容のほかに、補償の限度額や免責金額を選べる保険もあります。
運送会社が任意保険に加入していない理由
現在は貨物自動車運送事業法第6条に基づき、「貨物用事業用自動車が100両以下」の事業者が運送事業者(一般)の認可を受ける場合は、任意保険への加入が必要です。
任意保険の内容についても、次の基準が定められています。
・対人賠償は限度額が無制限のもの
・対物賠償は1事故あたり限度額200万円以上のもの
■参考:一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可申請 事案及び事業計画変更
2020年3月末時点の、車両数別貨物自動車運送事業者数(一般)は次のとおりです。
車両数 | 事業者数 |
10以下 | 2万9,197 |
11~20 | 1万2,947 |
21~30 | 6,011 |
31~50 | 4,703 |
51~100 | 2,918 |
101以上 | 1,183 |
10両以下が最も多く、次いで11〜20両、21~30両となっています。
100両を超える事業者数は、全体の2%程度です。
そのため、ほとんどの事業者は任意保険に加入しなければなりません。
その一方で、100両を超える車両を保有していない業者においても、任意保険に加入していないケースがあります。
保険料を支払う余裕がない
まれなケースですが、未加入の零細企業も存在しているといいます(※)。
理由として考えられるのが、事業者に保険料を支払う余裕がないことです。
※参考:第181回:運送会社が絶対に加入すべき保険とは|ブログ・小山 雅敬
下表は、近畿交通共済協同組合のサイトで試算した結果をまとめたものです(いずれもフリート契約)。
例えば小型トラックを10台保有している事業者の場合、年間47万円~167万円程度の固定費が発生することになります。
トラックの種類 | 契約内容 | 契約台数 | 割引率 | 年間1台あたりの保険料 |
最大積載量2トン超 | 対人対物無制限(対物免責金額20万円) | 10台 | 0% | 約24万円 |
75% | 約6万7,000円 | |||
最大積載量2トン以下 | 対人対物無制限(対物免責金額20万円) | 10台 | 0% | 約16万7,000円 |
75% | 約4万7,000円 |
■参考:簡単フリート見積もり
資金に余裕がある
例えば大型トラックを500台保有している企業において、1台あたり年間5万円の保険料がかかる場合、年間2,500万円の固定費が発生することになります(※)。
このような大企業では、任意保険に加入するよりも、年間2,500万円を積み立てて運用する「自家保険」のほうが経済的となる可能性があります。
ただし、事業用自動車の保険料は経費として計上できるため、節税面も考慮する必要があるでしょう。
※対人対物無制限(対物免責金額20万円)の契約内容で、割引率75%のフリート契約を想定したもの
リスクを考慮すると加入するべき
過積載によって下り坂でブレーキが利かなくなったダンプカーが、踏切に進入して列車が衝突した事故では、1億円を超える物損に関する損害賠償金の支払いが命じられています。
このようなケースにおいて、未加入でも問題なく支払える事業者はごく少数です。
そのため、任意保険に加入しておくことをおすすめします。
※参考:物損事故“高額賠償”4つの判例 事故によっては「億」単位も! | 自動車保険 オリコン顧客満足度ランキング
まとめ
自賠責保険は必ず加入しなければなりません。
任意保険についても、大部分の事業者は加入が必要です。
対人賠償は無制限、対物賠償もできれば無制限のものに加入しましょう。