終電がなくなり、深夜にタクシーを利用したことがある方が
いらっしゃるのではないでしょうか。
タクシー運転手を見ていると
「深夜の割増残業代はどうなっているのか」と気になる一方で、
「タクシー運転手は完全歩合制なので割増残業代は出ないのでは?」
という疑問が出てきます。
そこで本記事では、タクシー運転手の残業の割増賃金について詳しく解説します。
タクシー運転手に残業代である割増賃金は発生するのか?
タクシー運転手に残業代である割増賃金は発生するのかについてみていきましょう。
個人事業主の場合
個人事業主のタクシー運転手の場合は、
会社に雇用された労働者ではないため、割増賃金の概念はありません。
個人事業主は、タクシーに乗務する時間帯や、乗務時間は自身で決めることができます。
深夜やや休日のほうが、お客様を得やすいと考えている場合は、
そのときに出勤して営業するのも自由です。
タクシー会社勤務の場合
タクシー会社に勤務しているタクシー運転手は、
歩合制と給料制によって残業の割増賃金の扱いが異なります。
歩合制の会社
タクシー会社には歩合制を採用しているところがありますが、
時間外労働、休日労働、深夜労働を行なった場合も、
「歩合制」を理由に割増賃金が支払われていないことが多いです。
歩合制であっても、使用者であるタクシー会社は
労働者であるタクシー運転手に割増賃金を支払わなければなりません。
タクシー運転手に割増賃金を支払わなかったことで
裁判になった事例を後述していますので、合わせて参考になさってください。
給料制の会社
タクシー会社で歩合制ではなく給料制を採用しているところは少ないです。
給料制のタクシー会社でも、上記の歩合制の会社と同じく、
時間外労働、休日労働、深夜労働を行なった場合は、割増賃金の支払い義務が生じます。
労働時間と残業代の割増賃金について解説!
労働基準法第32条では、労働者の労働時間の上限が8時間、
1週間40時間と規定されており、これを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を超えて労働させる(=時間外労働)場合、
通常賃金の25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
例えば、時給1,000円の労働を10時間行なった場合、
10,000円の賃金が発生しますが、8時間の法定労働時間を2時間上回っていることから、
この2時間分に対して、時給1,000円×25%×2時間=500円の
割増賃金(残業代)が発生するのです。
つまり、この場合の総支給額は10,500円となります。
また法定休日(労働者に付与される週1日または4週を通じて4日の休み)に
労働させる場合は、通常賃金の35%以上、
22~翌5時まで労働させる場合は25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
時間外労働+深夜労働の場合は50%以上、
休日労働+深夜労働の場合は60%以上の割増賃金が必要です。
前述のように、14~0時に時給1,000円の労働を10時間行なった場合、
時間外労働+深夜労働を行なっていることになりますので、
時給1,000円×50%×2時間=1,000円の割増賃金(残業代)が発生する計算になります。
上記のような賃金にまつわる法律を知っておくことは極めて重要になるでしょう。
給料の例や詳細については、運転ドットコムの下記の記事も
合わせて参考になさってください。
タクシー運転手の平均年収・給料は約300万円。歩合制の仕組みを紹介
タクシー運転手に残業代が支払われない場合の対処法
タクシー運転手に残業代が支払われない場合は、
以下のような対処法・相談先がありますので、いずれかに相談するといいでしょう。
労働基準監督署
労働基準監督署は、未払いの残業代の相談のほか、
ハラスメントなど、労働に関するさまざまな相談を受け付けてくれる機関です。
労働基準監督署は全国にありますので、
会社が所在する地域の労働基準監督署に相談するといいでしょう。
ただ労働基準監督署は、会社への調査や、是正勧告を行なってくれますが、
未払いの残業代を回収してくれる機関ではないことを理解しておく必要があります。
弁護士
弁護士は、依頼者の代理人となって未払いの残業代を回収してくれます。
回収の際は弁護士が労働者に代わって交渉を進めてくれますが、
交渉がうまくいかなった場合は、労働審判や裁判などを任せることも可能です。
弁護士費用がかかりますが、残業代を回収する強い味方になってくれるでしょう。
社内の相談窓口・労働組合
会社によっては労働者が相談できる相談窓口を設置しているところがあります。
また労働組合が組織されている会社の場合は、
労働組合が未払いの残業代の交渉を行なってくれるのです。
相談窓口や労働組合がない場合は、外部の機関に相談するしかありません。
厚生労働省の労働条件相談ほっとライン
厚生労働省が設置している「労働条件相談ほっとライン」では、
誰でも無料で労働についての相談が可能です。
匿名で話しを聞いてくれるため、会社に知られることなく相談することができます。
労働相談ホットライン(全労連)
全労連は労働組合の連合会で、未払いの残業代を含めた労働相談に対応しています。
「労働相談ホットライン」では、秘密厳守および無料で相談を聞いてくれますので、
利用してみる価値はあるでしょう。
総合労働コーナー
厚生労働省が開設している「総合労働コーナー 」では、
未払いの残業代や職場のトラブルの解決にあたっています。
解決できるような情報提供もしてくれますので、一度相談に訪れるといいでしょう。
タクシー運転手に残業代が認められた裁判例
実際に、タクシー運転手に残業代が認められた裁判例がありますので
確認していきましょう。
洛陽幸運事件
2019年4月11日に、大阪高裁で判決が出された「平成29年(ネ)1966号」の裁判です。
この事件は、ヤサカグループのタクシー会社が、
歩合給全体を残業代と主張していましたが、
残業代は別途支払わなければならないという判決が下されました。
タクシー会社は上告まで行ないましたが、
タクシー会社側の言い分は退けられる形となりました。
国際自動車事件
2020年3月30日に、最高裁判所で判決が出された「平成30年(受)908号」の裁判です。
この事件は、歩合給を計算する際に、
残業代にあたる金額を控除して計算されていました。
最高裁は、この計算方法に対して
「割増賃金の本質から逸脱する」とし、タクシー会社側の主張を退けました。
徳島南海タクシー事件
1999年7月19日、高松高裁で判決が出された「平成5年(ワ)348」の裁判です。
この事件は、タクシー運転手の歩合給の中に時間外労働・深夜手当の
割増賃金が含まれていました。
高松高裁は、歩合給の中に時間外労働・深夜手当の割増賃金とすることはできず、
使用者は割増賃金を別途支払わなければならないとしました。
まとめ
タクシー運転手の残業の割増賃金について、ご理解深まりましたでしょうか。
タクシー運転手は歩合給が多いですが、
歩合給の中に時間外労働・深夜手当を含めることは原則できません。
タクシー会社に雇われているタクシー運転手は、
会社の給料形態について熟知しておく必要があるでしょう。
不当な扱いを受けたと感じた場合は、
記事に記載している相談先に相談してみてください。
本記事を参考に、一度給料明細をみて、
正当に割増賃金が支払われているかを確認してみてはいかがでしょうか。